大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口地方裁判所 昭和41年(わ)24号 判決

本籍

韓国慶尚南道昌原郡鎮北面網谷里五四八

住居

宇部市大字小串一、一一五の一

会社役員

福島源作こと

都相龍

大正一一年一二月二〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官佐藤博敏のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役八月及び罰金五〇〇万円に処する。

右罰金を完納できないときは、金一万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

本裁判確定の日から二年間、右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和三一年八月頃、宇部市において、ダンプ架装、トラツクボテイ製造、運送業などを営む東亜自動車株式会社を設立し、爾来同社の代表取締役社長に就任している者であつて、そのほかにも、昭和三〇年頃から昭和三九年末頃までの間、同市西区北町一丁目所在の「みやこ」パチンコ店(以下「西みやこ」と略称する。)、昭和二七年頃から昭和三八年一月頃までの間、同市東区錦町五丁目所在の「みやこ」パチンコ店(以下「東みやこ」と略称する。)、及び、昭和三六年八月頃から昭和三九年末頃までの間、大阪市都島区野田町七丁目所在の「みやこ」パチンコ店(以下「大阪みやこ」と略称する。)、の各店舗をも併せて経営していたころ、右各店舗の売上収入に関するメモ等を殆んど毎日のように破棄して、帳簿の記載をせず、且つ所得金を架空名義で預金する等の方法によつて、真実の所得金額を秘匿したうえ、

一、昭和三七年中における自己の総所得額(但し配当所得を除く)は、二六、一二四、六四四円であり、これより各種控除額合計四一九、七七二円を控除し、これによる算出所得税額一三、〇七八、三八〇円から、更に源泉徴収税額二二、二五〇円を差引いた、同年の確定所得税額は、一三、〇五六、一三〇円となるにもかかわらず、昭和三八年三月一四日、所轄宇部税務署において、同署長宛に、自己名義をもつて、東みやこ店および大阪みやこ店の所得を除外して、昭和三七年分の総所得額を、三、六二〇、九〇〇円、これに対する諸控除後の税額が、八八九、六九〇円となる旨記載した虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、更に昭和三八年三月一五日、同署において、同所長宛に、大石太郎こと李点大を介し、同人名義をもつて、東みやこ店の昭和三七年分所得額を、一、〇〇二、〇〇〇円、これに対する諸控除後の税額が、六七、三〇〇円となる旨記載した虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、自己が正当に納付すべき前記昭和三七年分所得税額と右各申告税額との差額である一二、〇九九、一四〇円の所得税を免れ、

二、昭和三八年中における自己の総所得額(配当所得を除く)は、五二、一四三、九九一円であり、これより各種控除額合計四二一、一一六円を控除し、これにより算出所得税額三〇、一〇三、九六〇円から、更に障害者控除額六、〇〇〇円及び源泉徴収税額九〇、〇〇〇円を差引いた同年の確定所得税額は三〇、〇〇七、九六〇円となるにもかかわらず、昭和三九年三月一六日、所轄宇部税務署において、同署長宛に、自己名義をもつて、「大阪みやこ」店の所得を除外して、昭和三八年分総所得金額を、四、三八〇、二五〇円、これに対する諸控除後の税額が一、一一四、六四〇円となる旨記載した虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、更に同日、大阪市旭税務署において、同署長宛に、実弟福島英作こと都相祚を介し、同人名義をもつて、「大阪みやこ」店の昭和三八年分所得額を、一、二八五、二五〇円、これに対する諸控除後の税額が九五、〇〇〇円となる旨記載した虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、自己が正当に納付すべき前記昭和三八年分所得税額と右各申告税額との差額である二八、七九八、三二〇円の所得税を免れたものである。

(証拠の標目)

一、証人福島英作こと都相祚、同水間義雄、同福井こと崔輝雄の各尋問調書

一、第四回公判調書中証人元石昭吾、同花田正利の各供述部分

一、第五回公判調書中、証人大石太郎こと李点大、同宇根崎静一の各供述部分

一、福島英作こと都相祚(二通)、福井輝雄の検察官に対する各供述調書

一、第六回公判調書中、証人福島幸作こと都相奎、同大石太郎こと李点大の各供述部分

一、第八回公判調書中、証人羽原英一、同福島澄子こと陳鳳仙の各供述部分

一、審査請求者都相龍に対する各裁決書写(三通)

一、都相龍に対する昭和三七年分、及び昭和三八年分所得税の各更正決議書写(二通)

一、証人羽原英一の当公廷における供述

一、大石太郎こと李点大、三輪駒夫、伊藤康義、永山徳治こと李甲柱、春岡慶祐こと陳点春、三宅邦彦、谷山元一こと康冕煕、春岡謙治、春岡新治、河田流一の検察官に対する各供述調書

一、伊藤康義(三通)、三輪駒夫(二通)、春岡新治こと陳貴春(昭和三九年八月三一日付)、永山徳治こと李甲柱(四通)、村山学、西村望、沢田敬三(二通)、三浦進、大門喜勝、大島豊(二通)、山田フミエ、西山永浩、新造達雄、新造義雄、部坂りか子、村田登、加藤又栄(二通)、小林富之進、神田正一、秋沢繁、稲富久男、稲富晃、江原守こと金占守、竹原権次郎こと権寧世、福島竜作こと都竜雨、大野春雄、清水真平、谷山元一こと康冕煕、石崎正男、立森茂、高橋昇、奥野信義、清水薫の大蔵事務官に対する各質問顛末書

一、「直接国税にかかる行政処分状況について」と題する書面

一、被告人の大蔵事務官に対する、昭和三九年九月九日付、同年一二月一五日付、同月一八日付、昭和四〇年一月二五日付、同月二六日付、同月二七日付、同年二月一六日付、同月一七日付、同月一八日付、同月一九日付、同年四月二六日付、同年七月二六日付、同月二七日付(二通)、同月二八日付各質問顛末書

一、被告人の検察官に対する各供述調書(合計九通、検察官請求の順序番号四二七から四三五まで)

一、別表(一)に記載してある各証拠資料(検察官請求の順序番号一から一四九まで)

一、いずれも押収してある別表(二)記載の各証拠物(昭和四一年押第四八号の1から78まで)

一、被告人の当公廷における供述

一、第一回公判調書中、被告人の供述部分

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも、所得税法附則二条により、昭和四〇年三月三一日法律第三三号による改正前の所得税法六九条に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、それぞれ懲役刑と罰金刑とを併科することとし、懲役刑については、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示二の罪の刑に法定の加重をなし、罰金刑については同法四八条二項に従い合算した刑期及び金額の範囲内で、被告人を懲役八月及び罰金五〇〇万円に処し、刑法一八条により右罰金を完納できないときは、金一万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置することとし、更に情状により、刑法二五条一項を適用して、本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。なお、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文により、これを全部被告人に負担させる。

(本件の争点に関する当裁判所の判断)

本件において、被告人及び弁護人は、(一)、昭和三七年における「東みやこ」は、被告人と大石太郎こと李点大(以下大石と略称する)との共同経営であつて、被告人のみの単独経営ではなかつた。(二)、昭和三八年における「大阪みやこ」の事実上の経営者は、被告人の実弟福島英作こと都相祚(以下英作と略称する)であり、被告人ではなかつた。したがつて、右各年度における、右各店の所得を被告人の所得として計上するのは不当である、旨主張して争うので判断するに、

(一)、昭和三七年における「東みやこ」の経営が、利益折半の約で、事実上大石の運営の下に行われたことは、同人の証言及び被告人の供述により、これを認めうるが、同年における福岡相互銀行宇部支店の大石名義の当座預金台帳及びその他の証拠をも合わせて総合検討すると、「東みやこ」店の設備一切は被告人の所有であり、大石はまさに裸一貫で同店に入った者であつて、何らの出資もしていないこと、同店の営業名義は同年中被告人の妻澄子名義で届けられていたこと、利益折半と言つても、諸経費をさしひいた後の利益についてであり、若しその際損失がでれば、これはすべて被告人の負担であり、そのような場合においても、被告人は大石に対し、生活費を保証する約であつたこと、などが認められるので、昭和三七年における「東みやこ」の営業が被告人と大石との共同経営であつたとは肯認し難く、その営業主体はあくまでも被告人であり、大石は同店の支配人的立場にあり、その報酬が純益の半分という所謂歩合制をとつていたものと認めるのが相当である。よつて、この点についての、大石の検察官に対する供述調書の内容は、信用性があり真実を述べているものと考えられる。

(二)、次に、昭和三八年における「大阪みやこ」の経営の帰属であるが、関係各証拠によれば、同店の開業資金はすべて被告人からでており、同店の建物及び設備一切は被告人の所有であつたこと、英作は「大阪みやこ」の収益の中から、月給を貰つていたこと、被告人は同店の経営に関し、兄より弟への単なる助言、指導という立場以上に干渉を加えていたこと、すなわち、再三上阪して経営の指揮にあたり、或は経理の調査をしたり、部下を派遣してその監査をさせていること、被告人は、昭和三七年末「大阪みやこ」店を再開するにあたつて、数千万円という資本をこれに投下しているのに、この投下資本の回収方法につき、英作との間に、何らの具体的な取り決めがなされていなかつたこと、当時英作は大学院を中退して間もなく、年令が若いうえに、このような事業についての経営手腕も未熟であつたこと、また、被告人自身が昭和三八年の所得税確定申告をなすに際し、英作を自己の事業の専従者控除の該当者として申告し、更に、英作の長男秀雄を自己の扶養親族該当者として申告していること、などが認められるので、同年における「大阪みやこ」の経営が英作に帰属していたとは到底認められず、むしろ被告人自身も、当時英作を同店の経営者とは認めていなかつたと推定されるのである。したがつて、それにもかかわらず、同年の所得税確定申告に際し、「大阪みやこ」を分離して、英作名義で申告させたことは、あくまでも税金を不正に免れようという意図のあつたことの証左と見られてもいたしかたのないところである。被告人の当公廷における供述中、この点に関する部分は措信できず、むしろ検察官に対する供述調書の記載内容が、真相をもの語つているものと思料される。

したがつて、被告人及び弁護人の右主張はいずれも理由がない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 植杉豊)

別表(一)

〈省略〉

別表(二)

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例